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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页
湯島の家へ着いたのは、もう九時ごろであった。元町の水道の傍を通るとき、すれすれに行き違った背の低い男が一人あった。お庄は傘の下から、ふっと顔を出すと人家の薄明りに、ちらと見えた白いその男の顔が、芳太郎であることに気がついた。お庄は息が塞るような心持で、急いで堤について左の方へ道を折れた。店屋の立て込んだ狭い町まで来た時、お庄は冷や汗で体中びっしょりしていた。
湯島の家では、衆が入口まで出て来て、異ったお庄の姿や、真蒼なその顔を眺めた。お庄は上り口でインバネスを脱ぐと、がっかりした体を這うようにして流しの方へ出て行った。
「芳が今ここへ俥で駆けつけ尋ねて来たぞえ。」伯母はお庄の顔を見るなり、言い出した。
「やっぱりそうでしょう。」と、お庄は呼吸がはずんで、口が利けなかった。
その晩は早くから戸を締めた。
母親が、二、三日前から余所へ手伝いに行っていることが、伯母の話で解った。その家が、近所の知人のまた知人の書生の新世帯であることも話された。
「正雄が店でも持つまで、人中へ出て苦労してみるもよかろうず。」伯母はこうも言った。
翌日午後、四ツ谷の家から、老人が着替えを二、三枚届けてくれてから、お庄は独りで世帯を切り廻したことのない母親の身の上も気にかかったし、この先自分の体の振り方も会って相談して見たいと思った。