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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

下宿人のなかには、役所から退けて来ると、友達と一緒に夜おそくまで酒を飲んで、棋など打っている年老った紳士も二、三人紛れ込んでいたが、その心持は、周囲の学生連と大した相違はなさそうに見えた。それが笹村には羨ましいようであった。

夜になると、お銀は子供を抱え出して、坂のうえあたりまで一緒について来たが、子供に「ハイちゃい」をして下宿へ入って行く笹村は、下宿の空気とはどうしても融け合うことのできぬあるものが、胸にこだわっていた。もう試験を済ましてしまった学生連は、どこの部屋にも陽気な笑い声を立てていた。腕車で飛び歩いている連中や、荷物を纏めている人たちもあった。笹村は台所の上になっている暑い自分の部屋を出て、バルコニーの方へ出ると、雨に晒された椅子に腰かけて、暗いなかで莨を喫していた。そこへ二、三人の学生が出て来た。白粉の匂いのする女中たちも出て来た。

笹村は齲歯が痛み出して、その晩おそくまで眠られなかった。笹村は逆上せた頭脳を冷まそうとして、男衆に戸を開けさせて外へ出た。外は雨がしぶしぶ降って、空は真闇であった。風も出ていた。その中を笹村は春日町の方へ降りて行った。