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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

「あれでも手はどんなに利くもんだか……私の叔父は始終あれに縫わしたんですの。」

そう言って見せる仕立て物は、笹村の目にもいかにも手際がよいように見えた。

この女を透して、お銀と磯谷との消息が通じているのではないかと、笹村は時々そういうことを感ぐって見たりなどした。夜使いに出たお銀の帰りの遅いときも、笹村の頭にはおりおり暗い影がささないわけに行かなかった。そういうとき、笹村は泣き出す正一を抱き出して、灯影の明るい通りの方へ連れて行った。そうしてお銀の帰るのを待ち受けた。

買いものの好きなお銀は、出たついでにいろいろなものをこまごまと擁えて、別の通りから冴え冴えした顔をして家へ帰って来ていた。

「これを召し食ってごらんなさい、名代の塩煎餅ですよ。金助町にいる時分、私よくこれを買いに行ったものなんです。」

お銀は白い胸を披けながら、張り詰めた乳房を啣ませると、子供の顔から涙を拭き取って、にっこり笑って見せた。

「私途中で、岡田さんの奥さんに逢ったんですよ。しばらく来ないから、どうしたのかと思ったら、あの方たちも世帯が張りきれなくなって、二、三日前に夫婦で下宿へ転げちゃったんですって……。