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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

「そんな気の利いたものじゃないんだよ。」

お雪は莨を吸いつけて、お増に渡した。

「会社?」

「あの男に、堅気の勤務などが出来るものですか。」

お雪はそう言いながら、煤ぼけた押入れの中から何やら、細長い箱に入ったものや、黄色い切に包んだ、汚らしい香炉のようなものを取り出して来た。

「お前さんの旦那は工面がいいんだから、この軸を買ってもらっておくんなさいよ。何だか古いもので、いいんだとさ。」

燻ぐれた軸には、岩塊に竹などが描かれてあった。

六

日中の暑い盛りに、お増はまたそこへ訪ねて行った。

お増は昨夜の睡眠不足で、体に堪えがたい気懈さを覚えたが、頭脳は昨夜と同じ興奮状態が続いていた。薄暗い路次の中から広い通りへ出ると、充血した目に、強い日光が痛いほど沁み込んで、眩暈がしそうであった。お増は途中でやとった腕車の幌のなかで、やはり男の心持などを考え続けていた。

お雪の家では、夫婦とも昼寝をしていた。青柳は縁の爛れたような目に、色眼鏡をかけて、筒袖の浴衣に絞りの兵児帯などを締め、長い脛を立てて、仰向けになっていた。少し離れて、お雪も朱塗りの枕をして、団扇を顔に当てながらぐったり死んだようになっていた。