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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

お増が新調のコートを脱ぎながら、気忙しく訊いた。

「よくは判らなかったけれども、何だか老けた顔していましたわ。背の高い痩せた人ですよ。それで、私がお二人ともお留守だとそう言いましたらば、名も何も言わずに、じきに帰って行きましたよ。」

「てっきりお柳さんですよ。」

お増は坐りもしないで言った。

「私もそう思いました。」お今も愛らしい目を二人の方へ動かしながら言った。その顔が美しく薔薇色に火照っていた。

「知れるわけはないはずだがね。」

浅井は首を傾げながら呟いた。

「あなたがつけられたんですよきっと。」お増は思案ぶかい目色をした。

浅井は目元に笑っていた。

「何、知れるものなら、こっちがどんなに用心したっていつか知れる。向うはお前一生懸命だもの。」

「それにしても、あの人きっとまた来ますよ。ことによると、どこかそこいらにまだいるかも知れませんよ。」

お増は不安そうに言った。

「こうしているところへ踏み込まれてごらんなさい、それこそ事ですよ。私はどんなことがあったって、あの人と顔なぞ合わされやしませんよ。」

自分たちの巣を、また他へ移さなければならぬことが、さしずめ考えられた。