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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本怪談大全 第一巻 女怪の館』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟇の血、赤い土の壺、赤い花、馬の顔、切支丹転び、藤の瓔珞、草藪の中、仙術修業、頼朝の最後、雪の夜の怪、港の妖婦、神仙河野久、文妖伝、女賊記、春心、岐阜提灯、女の首、女の怪異、妖影、牡蠣船、雑木林の中。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 页
「若旦那、どこへいらっしゃるのです」
広巳はお鶴の顔を見るばかりであった。
「若旦那、どうかなさったのですか、今日は奥さまのお伴をして、あなたにお眼にかかりに往くところよ」
定七は困ったが、お鶴といっしょにいる地位のありそうな女に気がねして何も云わなかった。広巳はやっぱり何も云わなかった。
「どうしたの、若旦那、私がこの間話した奥さまじゃありませんか」
広巳の眼はお鶴の傍にいる女へ往った。女はしとやかにおじぎをした。
「山田さま、暫くでございました、もう十五六年にもなりますから、お忘れになってらっしゃると思いますが、私は森山節でございます」
精神の混沌としている広巳にはものを考える力がなかった。広巳は痴のように女の顔を見た。お鶴がそれをもどかしがった。
「若旦那、思い出せないですか、何時も若旦那と遊んでいらした方ですよ、忘れたのですか、ここの八幡さまの中で、若旦那が諍闘してた時に、留めてくだされた方ですよ」
広巳の混沌としている気もちを揺りうごかすものがあった。広巳は女を見なおした。
「あ」
それは広巳の尋ねている海晏寺の前の榎の下で見た女であった。女は心もち顔をあからめていた。