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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
「旦那、もぬけの殻です。これごらんなさい。こんなもので、まるで寝ているようにごまかしてあるんです」
刑事たちが踏み込んで調べてみると、蒲団を人の寝ているような形にふくらまし、頭のところには丸めた座蒲団を入れて、それに手拭をかぶせてあった。綾子の持ち物は何一と品残っていない。
さっそく係りの女中を呼んで訊ねてみると、この部屋の客はゆうべおそく、少し加減が悪いので、朝寝坊をするから、昼頃まで起こさないようにと女中に言いつけたことがわかった。
「でも、あんまりお眼ざめにならないので、さっきから二度ばかり、襖を細目にあけて覗いてみたのですけれど、向こうをむいてよくおよっていらっしゃるようでしたので、そのままにしておいたのです。まさかこんな細工がしてあるとは気がつかなかったものですから」
女中はきまりわるそうに弁解するのであった。
玄関の履き物を調べさせてみると、綾子のはいてきた草履が、いつの間にか無くなっていることがわかった。
結局、綾子は、ゆうべおそくか、けさあけがたに、宿の者の眼を盗んで、草履を持ち出し、裏口からでも立ち去ったものとしか考えられなかった。