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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
そして、あの内証話のような笑い声を立てた。
しかし、伊志田氏はその怪物を捉えることができなかった。
黒いやつはピストルをつきつけて、老人のような笑い声を立てながら、立ちすくむ伊志田氏を尻目に、悠々と部屋のそとへ姿を消してしまった。そして、書生たちが現場に駈けつけたころには、例によって、怪物は蒸発したかのごとく影も形も見せないのであった。
ある夜ふけ、伊志田氏が何か妙な物音に、ふと眼を覚ますと、寝ているベッドの下から、黒い影のようなものが、スーッと這い出してきて、覆面の頭をこちらに向けて、嘲けるような笑い声を立てた。
またある時は、伊志田氏の書斎の入口の、ドアの上の通風窓に、黒い人影が猿のようによじのぼって、そこからじっと部屋の中を見おろしていた。
一郎青年はたまらなくなって、ある日、病院の明智小五郎に電話をかけた。
「先生、助けてください。僕はもうどうしていいかわからなくなりました」
彼は電話口で悲鳴を上げた。その声には何かしら狂気の前兆のようなものが感じられた。
「あいつがまた戻ってきたんだろう」
明智の静かな声が聞こえた。傷もほとんど癒えて、もう電話をかけられるようになっていたのだ。