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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

誰もいないぜ」

そのあとから押入れの中へ首を突っ込んだ刑事が頓狂な声を立てた。

刑事たちはつぎつぎとその中を覗きこんだが、皆あっけにとられたように無言で顔を見合わすばかりであった。

押入れの中には、いろいろな道具類が置いてあったが、人間一人隠れるほど大きなものは何もなかった。それにもかかわらず、今逃げこんだばかりの曲者の姿は、まるで溶けてでもしまったように、影も形も見えないのだ。

「変だなあ。いったいどうしたっていうんだろう」

何かゾッとしたように、一人の刑事がつぶやいた。

怪物は又しても得意の魔法によって人々の眼をくらましたのであろうか。だが、今の世に怪談は許されない。いくら怪物でも物理学の法則を破ることはできない。これには何かカラクリがあるのだ。ひょっとしたら、この押入れの中に秘密の抜け道でもあるのではないだろうか。なにしろ奇人の建てた古い建物だから、そういうものもないとはいえぬ。

北森課長はふとそこへ気づいたので、みずから押入れの中へはいって、壁や床板をあちこちと調べてみたが、間もなく薄笑いを浮かべながらそとに出てきた。

「やっぱりそうだ。抜け穴があるんだよ。