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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

北森氏の想像にたがわず、これは最初この建物を建てた西洋人が、物好きからか、或いは何かの秘密の用途のためにか、こしらえておいた地下道に違いない。それを犯人が発見して、隠れ場所に使用しているのだ。覆面の怪物はこの邸内をまるでわが家のように、自由自在に歩きまわり、しかも、幾度追いつめられても、かき消すように姿をくらましていたのだが、こんな抜け穴があるのでは、なんの不思議もないことであった。あの神変不可思議の魔法の種はここにあったのだ。

北森氏はその冷たい石の上を這いながら、ふと、今自分は誰を追っているのかということを考えた。そしてなんとも言えぬ変な気持になった。これまでの情況証拠はすべて伊志田綾子を指さしていた。伊志田家の家族の一員であるあの美しい娘さんが、恐るべき殺人犯人と目されていた。すると、この冷たい暗い地下道の中を、四つん這いになって逃げて行く覆面の怪物は、やはりその美しい綾子でなければならない。ああ、そんなことがあり得るのだろうか。

用心に用心をしながら這い進んで行くと、ふと懐中電燈の淡い光が、一間ほど向こうにうごめいている黒いものの姿を照らし出した。