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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

そこには立派な金ピカの仏壇が安置され、あけ放った扉の前には、妙な形のロウソク立てになん十本という小ロウソクが、チロチロと赤い焔をゆるがしていた。

老人は祈祷者かなんぞのような白衣を着て、仏壇に向かって端坐し、数珠をつまぐりながら、歯のない口を無意味に動かして、襖のひらいたのも知らぬげに、一心不乱に経文を読誦していた。

なでつけにした銀髪が、長く手入れもしないのか、モジャモジャと乱れて、青ざめた皺くちゃの顔の中に、目がねの中の落ちくぼんだ両眼だけが、異様にするどく、気違いめいた光を放っていた。

この八十歳にも近い老人は、何をかくまで熱心に祈っているのであろう。うちつづく不幸に心も乱れて、せめては残る家族の無事を念じて、このように一心不乱になっているのであろうが、この部屋の異様に陰気な気違いめいた雰囲気は、ともすれば、その逆に、何かしら無気味な呪いとでもいうようなものを連想せしめた。

明智はその様子を、細目にひらいた襖の隙から、ソッと覗いていたが、老人がさいぜんからの騒ぎに少しも気づいていないらしいことを確かめると、別に言葉をかけるでもなく、そのまま又音のせぬように襖を閉めて、廊下に出た。