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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

「女中さんは?」

「女中はいるはずです。それに御隠居さまもいらっしゃるのですが、一郎さんの部屋とはずっと離れていますので、まだお気づきになっていないのでしょう。ちょっとお知らせして参ります」

「いや、それはあとにした方がいいでしょう。怪我人の介抱が第一だ」

せかせかと話し合いながら、薄暗い階段を上がって、二階の廊下を少し行くと、そこが主人の書斎であった。一郎はその父の書斎で兇漢に襲われたのである。

書生を先に書斎へはいってみると、夕暮れどきの上に、窓の少ない古風な建物なので、部屋の中は非常に薄暗かったが、その床に倒れている人の姿はたちまち眼にはいった。

薄闇の中に一郎のあの美しい顔が血に染まって浮き上がって見え、肩から胸にかけて手傷を受けたらしく、その辺を血まみれにして、身をくねらせて横たわっていた。

予感はむごたらしくも的中したのだ。恐ろしき前兆は今やそのまま現実となって現われたのだ。だが、美青年伊志田一郎はすでに息絶えたのであろうか。妖魔はその第一の犠牲者を完全に屠り去ったのであろうか。

明智と書生は、部屋に一歩踏み込んだまま、薄闇の中の血の色の生々しさに、犠牲者に駈けよることも忘れて、しばらくは、茫然とその無残な光景を打ち眺めるばかりであった。