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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
綾子と寸分違わないもう一人の娘が、この広い建物のどこかに隠れているのだろうか。そして、その娘が犯人の手先となって、邸内をさまよい歩き、さまざまの奇怪な行動をしているのではないだろうか。
だが、明智はあのとき綾子の顔を見たのだ。たとえよく似た娘が変装していたのだとしても、明智ともあろうものに、その見分けがつかなかったとは考えられぬ。
「綾子、お前そんなことを言って、わしをごまかすのじゃないだろうね。ほんとうのことをいうんだよ。どんなこみ入った事情があるにもせよ、お父さんに隠し立てをしてはいけない。さあ、すっかり話してごらん」
伊志田氏は唯物論者であった。怪談を信ずることはできない。綾子は何か秘密を持っているのかもしれないと考えたのである。
綾子はそういう父の顔を、恨めしげにじっと見つめていたが、突然、恰好のよい唇の隅が、笑い出しでもするように、キューッと引きつった。
「お父さま、まだ疑っていらっしゃるの?」
烈しい口調で言ったかと思うと、悲しみにゆがんでくる顔を、ハッと両手で蔽い隠し、そのまま肩を震わせて泣き入るのであった。
はじめは声を噛み殺していたが、耐えられなくなったのか、ついには子供のように声を立てて泣き出した。