轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

と甲斐は云った。

どうなさるのです。どうしてもいい、おれを引摺ってゆけ。動いては傷に障ります。いいから云うとおりにしろ、と甲斐は云った。

与五兵衛は甲斐を見、それから斃れている大鹿を見た。そして跼んで、甲斐の左の腕を自分の首にかけさせ、両手で抱くようにしながら、用心ぶかく、そろそろと斜面を滑らせた。甲斐はするどく顔を歪めたが、啼き声は出さなかった。

「もっとそばへやれ」

甲斐はそこへと、手で場所を示した。与五兵衛は云われるとおりにした。大鹿の死躰のそばへおちつくと、甲斐は「くびじろ」といって、その大鹿の頸へ手をやった。

「おれの手でやりたかった」と甲斐は云った。

与五兵衛の髭だらけの顔が急に硬ばった。

「おまえはもう年をとった」と甲斐は云った。

大鹿の頭や頸から、雪をはらいおとし、その頬や頸を、手でやさしく撫でながら、甲斐はさらにつづけた。

「おまえはとしよりになった、まもなく若い鹿に追いやられるか、どこかのつまらない猟師に殺されるかするだろう、おれはそうさせたくなかった」

そんなみじめなことにはさせたくなかった、と甲斐は云った。

「おれとおまえはながいなじみだ、おれはおまえをりっぱに、くびじろらしく、死なせてやりたかった、おれは自分で、自分のこの手で、おまえを死なせてやりたかったのだ」