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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

断章(七)

「おあがりなさいましな」さきにあがったおみやが、座敷の中から彼に笑いかけた、「そんなところにいらしっては話しもできやしませんわ」

「私は半日の暇をもらって出て来たので、そうゆっくりしてはいられないんです」

「でもお口をしめすくらいはいいでしょ」とおみやは云った、「わたくしお上づきの腰元だって、申上げた筈ですわ」

「では茶を一杯だけ」

黒田玄四郎は刀を脱し、それを右手に持って、濡縁へあがった。

断章(七)

――申上げます。里見十左衛門がおめどおりを願っております。

「十左が、おれにか」

――枉げておめどおりをと、申します。

「隼人に会ってやれといえ」

――隼人にございます。

「待ちかねた、十左に会ったか」

――はあ、ただいままで。

「半刻以上になるぞ」

――すっかりくいさがられました。

「用件はなんだ」

――吉岡(奥山大学)どのの件でございます。

「問責だな」

――箇条書を持参しました。

「読んでみろ」

――長文ですから摘要して申上げます。

まず吉岡どの自身の放埒をあげ威福をほしいままにし、公法を犯して常に白小袖を着すこと。饗宴に善美をつくし酒興遊楽に耽ること。乱舞の者を召抱え、鷹を飼うこと百羽を越えること。