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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

胡桃の花

「いそぐな、彼は使いみちがあるのだ」

――それはたびたびうかがいました。

「では彼を怒らせるな」

――そういたします。

「忘れていた、まもなく改元になるぞ」

――はあ。

「年号が変るのだ、数日うちか、少なくともこの四月ちゅうには変るだろう」

――なんと変りますか。

「寛文というそうだ、たぶん寛文ときまるだろうと聞いた」

――すると万治は三年で終るわけですな。

「そうだ」

――ふしぎな気がいたします。

「なにが」

――綱宗さまは万治元年に御相続あそばされ、去年の秋には御逼塞の沙汰が出ました、そうしていま年号が変る、万治という年は、綱宗さまを世に出し、また御隠居させるためにあったように思われます。

「うん、そして、寛文という年代こそ、隼人、この年代こそだぞ」

胡桃の花

五月十七日に、甲斐は、山の小屋から船岡の館へおりて来た。

彼は正月十一日に江戸から帰ると、すぐに山へあがって以来、ずっと小屋にこもったままで、七日に一度、家老の片倉隼人が用務のために訪ねるほか、一人の家従も近づくことを許さず、山番の与五兵衛と二人だけで暮していた。

二月に江戸で、本邸の移転があったことも、甲斐は山の小屋で聞いた。