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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

梅の茶屋

梅の茶屋

年があけて、万治四年(この年四月に「寛文」と改元)の正月二十日に、浅草材木町の家へ、おみやが帰って来た。五日まえ、――新八は元服していたが、おみやは、初めて見る彼の男になった姿に、まあと眼をほそめて、しばらくうっとりと見まもっていた。

又五郎は道場へでかけたあとであった。

新八は妻女のさわと娘のお市をひきあわせた。さわは寝ていたが、自分たち一家が世話になっている人の妹だと聞いて、いそいで起きて接待しようとした。娘のお市はそれをとめ、「もう自分も十歳になったのだから」などと云いながら、手まめに茶を淹れたりした。襖ひとえだから、このようすは筒ぬけにわかった。おみやは新八の耳に「利巧そうなお子ね」と囁いたが、そわそわして少しもおちつかなかった。

「早く外へ出ましょう」

茶をひとくち啜ると、すぐにおみやが囁いた。新八は頭を振った。

「外出は禁止なんです」

「あたしが断わってよ」

「野中さんに気の毒なんです、柿崎さんは怒るにきまっていますから」

「ではあんた、ずっと家にいるっきりなの」

「一日おきに道場へゆきます」

新八は暗い顔をした。おみやはそれを見て、およそ事情がわかったようであった。