轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页
青根秋色
青根秋色
宇乃はしきりに話していた。
甲斐はぼんやりと、眼下のひろい展望をたのしんでいた。そこは青根の不老閣の楼上であった。「御殿」と呼ばれるその三層の建物は、崖の中腹にあり、長い廊下と階段によって浴室と通じている。三層の階上に藩侯の御座の間があり、二層に一家と一門、一層に老臣たちの休息部屋が並んでいた。
各層とも勾欄の付いた広縁が廻してあり、そこへ出ると、ちょうど断崖の端に立った感じで、眼の下から地勢が急にさがってゆき、遙かに青い海のかなたまで、気の遠くなるほど広く、大きい風景が眺められた。
甲斐は七日まえに此処へ来た。供は塩沢丹三郎と老僕の嘉門、そして宇乃と彼女の侍女お弓の四人であった。
「今日も松島が見えない」と甲斐が云った。
宇乃は殆んどあるかなきかに頷いた。甲斐には宇乃が「そうでございますね」と云うのが聞えるようであった。
宇乃はさっきから、黙って坐っていた。しかし甲斐には、宇乃がしきりに話しかけているように思われるのである。この青根へ来るまえ、――彼がくびじろの角にかけられて、重傷を負って倒れていたとき、喜兵衛たちといっしょに雪の中を駆けつけて来、気もそぞろに抱きついて泣いた。