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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页
――佐月どのは徳仁でございました。
「いっそ酒を飲み美食をし、好き勝手にふるまっていたら、もっとなが生きをしたかもしれぬ」
――お口ぐせでございますな。
「船岡(原田甲斐)はいたか」
――みえませんでした。
「甲斐が来なかったと」
――まだ傷養生をしているそうで、松山(茂庭家)の葬儀には、家老の片倉隼人がまいりました。
「傷養生は口実だな」
――私もさように存じました。
「傷養生は口実だ、彼がけがをしたのは正月のことではないか」
――正月中旬と聞きました。
「いまは八月だ、まる七カ月もかかる傷のようには申さなかった、これは茂庭と絶縁したというのが真実かもしれぬぞ」
――さようでしょうか。
「律の離縁をまだ不審に思っているのか」
――離縁の理由は根のないことです。中黒達弥と申す者と密通したという風評は、まったく事実無根で、これは船岡で知らぬ者はございません。
「甲斐も密通のことなど申してはおるまい、家風に合わぬという理由の筈だ」
――しかし中黒達弥を召放しております。そのために密通の風評が起こりましたので、そこになにかこんたんがあるものと、私は存じます。
「ではなぜ佐月の葬儀に来ないのだ」