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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

駿河台下の道場へ着くのは七時まえで、新八はすぐに稽古を始める。それから十時に道場をあがると、あとは六郎兵衛の用事をし、たいてい五時には、又五郎といっしょに、浅草の家へ帰るのであった。

柿崎道場は出稽古が主で、道場へ来る門人はあまり多くない。したがって、石川兵庫介が去ったあとの、五人の代師範は、交代で一人ずつ道場に残り、あとの四人は出稽古にゆく。そうして五時まえに帰って、六郎兵衛に挨拶をし、それから藤沢内蔵助と島田市蔵とは与えられた部屋へさがるが、家族のある野中又五郎、尾田内記、砂山忠之進の三人は帰るのであった。

その日は島田市蔵が残って、稽古をつけてくれた。島田は野中又五郎に次ぐ腕達者で、稽古はかなりきびしい。口にも遠慮がなく、気にいらないことがあればずけずけ小言を云った。

「どうもまずい、だめだ」彼はその日も辛辣だった、「その右足はまるで棒杭じゃないか、まるで地面へ突立てた棒杭みたようだ、どうして踵をそう重くするのかね」

新八は云われるようにしようとした。

島田は木剣をおろして、「いったい年は幾つになるのか」と訊いた。新八はむっとして、

「今年が寛文三年なら私は十九です」