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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

「そんなら文句はないでしょう」

「よくもそんな口が」おみやは躯をふるわせた。

顔はすっかり蒼ざめ、怒りと嫉妬のために唇まで白くなった。新八は眼をそむけた。

「新さん、あんたよくもそんな口がきけるわね、まさか三年まえのことを忘れたんじゃないでしょうね」

「それはこっちの云うことだ」

「なんですって」

「それはこっちで云いたいことだというんだ」と新八は云った、「あんたも柿崎さんも、口をあけば世話をしてやったとか食わせてやったとか云う、自分たちからはなれればその日から食うにも困るなどと云う、笑わせてはいけない、いったいあんたたちはなに者なんだ」

おみやは口をあけた。

「えらそうに構えているが、柿崎六郎兵衛は妹に躯を売らせて生きて来た男じゃないか」

おみやは「新さん」と云った。

今日は云うだけのことを云う、と新八はひらき直った。妹のあんたはあんたで、その必要がなくなってからも、好きで寺のかよいだいこくをするような女だ。それはひどいわ、新さん。だめだ、みんな知ってるんだ、と新八は云った。

「あの道場をひらいた金の出どこも、この新八をひきつけて置く理由も、私にはもうわかっている、世話をするどころか、あんたたちは私を利用して来たんだ」