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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页
と甲斐は向き直り、「客にゆくのだから酒の相手はだめだ」と断わった。
七十郎は甲斐の眼をみつめて云った。
「正直に答えてくれますか」
甲斐は微笑した、「七十郎にも似あわない、愚問だな」
「なにがです」
「まあいい、答えられることは答えよう」
「答えられないこともあるんですか」
「そう思うね」
「だがそうはいきませんよ、今日こそ私は納得のゆくお答えを聞くまでは、断じて動かないつもりですからね」
甲斐は眉も動かさなかった。
「第一にうかがいますが、貴方が一ノ関の与党になられた、という評を御存じですか」
「知らないね」
「そういう評がもっぱらです、ではそういう評が生れる理由はおわかりになるでしょう」
「どうだかな」
「わからないこともないわけですか」
「次を聞こう」
「私が例をあげます」と七十郎は云った、「貴方は松山ともはなれ、涌谷とも疎隔された、所労と称して船岡にこもり、仙台本城への勤めも怠っていた、それが一ノ関に推されると、たちまち上府して国老となり、かねて問題になっていた金山所属の件を、一ノ関の利分になるよう裁決した、涌谷と寺池(式部宗倫)との地境の諍いも、両後見に対する六カ条の問題でも、貴方がどういう態度に出るかわかっている、ということです」