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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

「それがどうした」

「しかし公儀におかれましては、隠居の願いをおききいれがなく、ついに逼塞という重い御処分を、仰せつけられました、また次に亀千代に家督の願いを申上げましたおりにも、御老中より弱年であるという御異議があったとおぼえております」

「それがどうしたというのだ」

「綱宗逼塞のときも、亀千代家督のときも、六十二万石壊滅かと、全家中は恐れ惑い、なかには仙台の城にたてこもって、斬り死にをしようなどと申す者さえございました」甲斐はそこで雅楽頭を見た、「両度に及ぶ公儀への恐れは、いまなお重役どもの胸に深く刻みつけられております」

「諄い諄い」と雅楽頭が遮った、「そのように済んだことを聞く必要はない、おれがなにを思い違えているか、それだけをはっきり申せばよいのだ」

「公儀への恐れがそれでございます」と甲斐は静かに云った、「公儀への恐れと、なおまっすぐに申せば、厩橋さまへの恐れでございます」

久世大和守が甲斐を見た。兵部は雅楽頭を見た。雅楽頭は「なに」と云った。

「おれを恐れていると」雅楽頭は滝尾から手を放し、まるで嘲弄するかのように繰り返した、「伊達家の重臣どもが、このおれを恐れているというのか」