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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

丹三郎はまた「はい」と頷いた。

「本当にそのためか」と甲斐が云った、「そうではあるまい、密談を聞いたことのほかに、理由があるだろう」

「いいえ違います」と丹三郎は顔をあげた、「そのほかに理由などはございません、決して」

「宇乃のこともか」

丹三郎は躯を固くした。

「宇乃のことが動機になっているのではないのか、そうではないのか」

丹三郎はまた頭を垂れた。

甲斐は感情のこもった調子で、ばかなやつだ、と呟いた。おまえが宇乃に文をやったことも知っている。青根の宿の湯殿で、宇乃と話すのもこの耳で聞いた。と甲斐は云った。

「宇乃はおまえを信じ、頼っていた、親が非業に死んだあと、おまえの家に預けられていたし、良源院へ移ってからも、姉弟の世話はおまえが受持っていた、そして、愛宕下の出来事があり、船岡までいっしょに旅をした」

甲斐はそこで口をつぐみ、やがてまたつづけた。

「愛宕下のときは、もう一と足ちがえばかどわかされてしまう、危ういところを助けられたし、船岡までのながい道次も、知っているのは丹三郎だけだった、これだけ条件がそろっていたのだ、宇乃がおまえを信じ、おまえを頼みに思っていたことは、このおれの眼にさえわかっていた、だが宇乃はまだ子供だった、恋などという感情はまだわからなかった、おまえは待つべきだった、少なくとも二年待てば、