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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

――私にはわかりません。

「なにがわからぬ」

――ふだんの原田どのと、山小屋にこもっている原田どのと、どちらが本当の原田どのか、ということがです。

「どちらも本当の甲斐だ、彼のなかには二人の甲斐がいる、人間には誰しもあることだが、彼のばあいは極端なだけだ」

――書状にはもう一つございます。

「なんだ」

――原田どのの内室が松山へゆき、そのまま六十日あまり滞在しているとのことです。

「なにかあったのか」

――松山で佐月(茂庭周防の父)どのが病気をされ、その看護にゆくというので、わかりしだい申上げるとございます。

「わかった」

――書状はそれだけです。

「柿崎のほうはどうだ」

――なにも変ったことはございません。

「出奔した男はどうした」

――石川兵庫介という者ですが、まだゆくえが知れぬもようでございます。

「あれは十二月のことだな」

――ただいまが四月ですから、もうあしかけ五つ月になります。

「柿崎の扶持は」

――減らしました、六人の組が欠けたのを理由に、正月から五十金にいたしましたが、これは申上げたと存じます。

「彼は不服を云わぬか」

――私はもっと減らすつもりでいます。