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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

と律が云った、「中黒達弥が誤解して申上げ、あなたがそれを信じていらっしゃるのでしょう、達弥はむきなだけの人間で、眼に見たものをそのままで判断したんです」

「もういちど云うが、その話しはよせ、私は聞きたくもないし聞いてもいないぞ」

「ではほかに離別するわけがあるんですか」

「私は周防に話す」と甲斐は云った。

「どうしてわたくしには話して下さいませんの、これは律の一生にかかわることでございますわ」

「私は周防に話すよ」

廊下に足音をさせて、矢崎忠三郎と松原十内の二人が、燭台と蚊遣をはこんで来た。

「酒を持って来てくれ」と甲斐が云った。

「わたくしが致します」律が立とうとした。

甲斐は頭を振った。律は立ちかけた膝を元に直した。二つの燭台に灯を入れ、蚊遣のぐあいをみて、二人は廊下を去っていった。

「わたくしを信じては下さらないのですか」と律が云った、「達弥は本当のことを知ってはいないんです、あなたがわたくしにあれを許して下すったということも、わたくしがみだらなことをしていたのではないということも」

「達弥は私にはなにも云わなかった」

「でもわたくしを憎んでいますわ、わたくしが不義をしたと思いこみ、不義をするだろうと疑って、絶えずわたくしを監視していますわ」