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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

「オホヽヽヽ」

「狡い人間の心理を穿ち得た名案でしょう?」

「はあ」

「僕なんか大丈夫ですけれど、吉川君あたりが引っかゝりましょう」

「まあ、突如人身攻撃?」

「ハッハヽヽ」

「駄目よ」

「安達君あたりは馬鹿正直ですから、『運転手さん、五十銭落ちていますよ』と念を入れて、却って笑われましょう」

「然うかも知れませんわね」

尚お話し続けているところへお母さんが現れた。いつもは放任してあるけれど、溝淵閣下から話があったから気になって様子を見に来たのだった。

「佳子や、お前、夕方のお薬を戴きましたの?」

とお母さんはそれが唯一の用向きのように訊いた。

「あら、私、忘れていましたわ」

「いけませんよ」

「戴いて参ります」

と佳子さんは急いで出て行った。これが瀬戸君に求婚者として致命的な思いつきを与えた。

「何処かお悪いんでございますか? 佳子さんは」

「いゝえ、一向」

「しかしお薬をお上りになるんですから」

「何とかいう独逸の健康剤でございます。お医者さまに勧められて、この間から試めしに服用していますの」

「お医者さんは軍医の方ですか?」

「はあ」

「その健康剤が利きますか?」

「何うでございましょうか? 何処も悪いんじゃございませんから」