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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

尤も本人は新婚旅行中でした」

「成程」

「訊いてみましたら、然ういうお礼状は必ず毛筆という習慣ということでした」

「それで早速発心したんですね」

「いや、然うじゃありませんけれど」

「ハッハヽヽ」

「結婚問題と習字とは関係ありませんが、兎に角、人に笑われたくないと思ったんです。それだものですから……」

と安達君は慌てゝしまって、いつもの癖を出した。

「結構ですよ。用意周到に越したことはありません」

「用意の意味じゃありません。一種の精神修養の積りです」

「思い立ったことです。折角おやりなさい」

「はあ」

「何うぞ御ゆっくり。お邪魔致しました」

と言って、橋本閣下は出て行った。

「安達さん」

「はあ」

「お習字は少しお早手廻しじゃございません?」

と佳子さんが諢った。

「申訳ありません」

「いゝえ」

「ついあんなことを言ってしまったんです」

「構いませんのよ」

「こんなに汗をかきました」

と安達君は額を拭いた。正直者はこんな具合で矢張り相応のところをやっているのである。習字までして待っていてくれると思えば、佳子さんも決して悪い心持はしまい。

最後の手段

吉川君は年末年頭を利用して、一気呵成に事を決する積りだったが、丸尾夫人調製の番組が悉皆腐ってしまった。