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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

去年あたりだったよ」

と閣下は威張ったが、

「もう一昨年でございますわ」

と早速夫人に揚げ足を取られた。

「うむ。明けたから一昨年になると言おうと思っていたんだ。長倉がやって来た。何となく顔の間が伸びていたから、直ぐに気がついた。髭がない。大分白くなって年寄に見えるから剃ったと言うんだ。俺は何うも然ういう軽薄なことが気に入らん。長年顔の飾りを勤めていたものを、白くなったからといって、弊履を捨てるように落すのは人情に反く。何うだね? 君は然う思わないか?」

「成程、御道理です」

「お前は然ういう料簡で部下を使っているのかと訊いてやった。長倉は頻りに弁解した。寧ろ自衛策だと言うんだ。年寄に見えると首になる心配があるから、皆髭を落したり髪を染めたりすると言うんだ。しかし俺はそんな卑怯な真似は嫌いだから、大いにお説法をしてやった。人間には愛惜の情というものがなくてはならん。俺は同じ万年筆を三十年近く使っている。情が移ると、安物でも手放せない。品物にしても然うだ。まして髭は自分の体も顔という看板の特徴じゃないか? 首が怖い為めに剃るなんて法はない」

「成程」

「長倉は黙って聴いていたが、突如食ってかゝって来た。