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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

「成程」

「鏡の中を気にしている間に、ドカンとやるんだ」

「危い/\」

「ところで何うする?」

「矢っ張り電話をかけると宜かったんだ」

と安達君は然う発起した丈けに今更軽率を悔んだ。

三越が近かったので、二人は寄って見た。何も買物はない。彼方此方ブラ/\歩いている中に絵の展覧会場へ出た。何方も興味はないけれど、退屈凌ぎに見物した。瀬戸君は年嵩の紳士に出会って、ペコ/\頭を下げた後、安達君のところへ寄って来て、

「安達君、教頭に取っ捉まってしまった。一緒にお茶を飲もうと言うから、僕はこれで失敬する。さよなら」

と独り定めに定めて行ってしまった。安達君はこの時初めて瀬戸君を当てにならない男だと思った。長い交際だけれど、こんなことは今までなかった。小宮君が不在でも、日本橋くんだりまで引っ張り出した以上は行動を共にするのが当り前だ。電話をかけさせなかった責任も感じないで、弊履を棄てるようにして後も振り向かない。全然自己本位だから、甚だ不愉快だった。しかし間もなく同情的に考え直した。もうお互に学生ではない。勤めが大切だ。自分にしても、若し会社の上役に会って誘われゝば、矢張り同じような態度を取るかも知れないと思って、宥恕することに努めた。