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きゅうこんさんじゅうし
求婚三銃士
佐々木 邦
「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页
「出歩いてばかりいて、内を外ですって。主人には私の苦心が分らないんでございます」
と丸尾夫人は立ちかけて喋り続けている。大谷夫人は差当り拝聴している外仕方がなかった。真に宣伝上手な奥さんだと思った。御主人の惚気まで言っている。官邸だの次官だの局長だのと気障の限りである。
「大谷さんの奥さまも始終お忙しいようでいらっしゃいますわね」
と橋本夫人は漸く大谷夫人へ話しかける機会を得た。
「はあ。私のは貧乏閑なしの方でございます」
「まあ/\。大変な御謙遜でございますこと」
「お前は貧乏性だから始終セカ/\していると主人が申します」
「矢張り花形でいらっしゃいますから、彼方此方で引っ張り凧になるんでございますわ」
「何う致しまして。丸尾さんあたりと違って、地味なものでございますよ。同じ凧でも、鳶凧かも知れません」
「まあ/\」
「それは御交際もありますけれど、私達の方は民間でございますから」
と大谷夫人は聊か思い知らせた積りだった。これが宜しくない。しかし丸尾夫人は一向に感じなかった。民間は官途に一目置くものと信じているから、大谷夫人の厭味を当然の卑下と認めて、御機嫌よく暇を告げた。