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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

吉川英治『治郎吉格子 名作短編集(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:治郎吉格子、増長天王、醤油仏、八寒道中、野槌の百、銀河まつり、無宿人国記、雲霧閻魔帳。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 页

青空文庫

「そうだろうとも」と、百は、宥るような眼で、足をさすっているお稲をながめた。

「――男でも、小丹波や大菩薩を越えてくる者はめったにない。何だってまた、こんな道を……」

「甲州路は、すこし障りがあるものですから」

何か、ふかい訳がありそうなので、百は、口をつぐんだが、じっと、嬰児の顔を見て、

「こんな可愛いやつが一人あったらいいな、どんなに、おふくろの慰みになるかも知れねえ」

お稲は、百の独り言をふしぎそうに聞いた。こっちは、捨ててしまいたいとさえ思っているのに――と冗戯に、

「上げましょうか」

と、いうと、百は顔をあかくして、

「人の子じゃ」

と笑い消した。

鬢太に火傷ッ禿の一つもあるか、額に向う傷でも持たなければ、鍛冶屋職人らしくないが、百は、その鍛冶職でいて、ひどく、無垢な、悪摺れの見えない男だった。自体野天ばくちの立番でもしようという男に、女から話しかけられて、顔を赤くするなんていう意気地なしは少ない。そのかわりに、こんなのが一本気というやつで、もしその女にかかるか、なにかの間違いに怒ったらひどい事だろうと、お稲は思った。

「おや、他人の手は知っている。