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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

「川田」という仮名をそのまま、病院の受付に登録して、総監の身体は即刻、手術台の上に載せられた。宿直の医師はキビキビした調子で看護婦を督励し、総監の身体を裸にした。右の腋の下を中心に出血はかなり夥しく、消毒した脱脂綿で拭っても、上膊にパクリと明いた傷口から、鮮明な血潮がジクリジクリと、噴きだしてきた。医師は直ちに、総監の右腕の付け根を肩の上から緊縛させた。そしてピカピカ光る手術具をガチャリガチャリと音をさせながら、傷の手当に取懸った。

「……ああ、川田さん……でしたネ。傷は勿論貫通銃創で、弾丸は外へ抜けています。川田さんは天下一の幸運児ですよ。ピストルの弾丸は、長頭膊筋を撃ち抜いていますが、その中には動脈だの上膊骨だのがあるんです。どっちに当っても大変なことになりますが、貴下の傷は幸運にも上膊動脈と上膊骨との中間をうまく貫いています。化膿さえしなければ、ズンズンよくなりますよ」

総監は口を緘したまま、首を振って悦びの色を示した。

僕はそれから小一時間も付き添っていたであろうか。傷も案外急所を外れたことだし、総監もウツラウツラと睡りかけたので、僕は病室を辞去することにした。