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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

――同じように逡いだ街の科学者速水に、素早く耳うちをして愕く必要のないことを教えた。忠実なる警官は速水にも手を貸した上、尚も僕たちに附いて用をしたがる様子なので、これからの秘密行動に邪魔になって仕方がなかった。そこで、この館内には病人を看病している女が居るから、もし窓のところへ現われたら手を貸してやってくれと頼んで、ようやくのことで彼を窓下にピン附けにすることができた。そして僕と速水はそのまま薄く雪の積った深夜の舗道を走りだした。

「速水さん、一体これから、どうしようというのかネ」

僕は雪に足をとられそうなのを心配しながら、先刻から聞きたいと思っていたことを訊いた。

「T市の黄金の鍵を奪還するんだ」

「奪還? やっぱりねえ。……その黄金の鍵は何処にあるのかネ」

「市会の巨頭動坂三郎が持っている。これから彼の邸を襲って、奪還するのだ」

「失礼だが、君のような科学者に、泥棒のような忍び込みができるのかネ」

「心配無用!」

そう云い放って、街の科学者は腰のあたりをポンポンと鳴らした。何だろうと音のする方を見ると彼は何時持ちだしたのか、望遠鏡でも入っていそうな長い革袋を肩から斜めに懸けていて、それをポンポンと叩いてみせたのだった。