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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

彼の若者は、前後をソッと見廻した後で、潜り戸の上をコツコツコツと三つ叩いた。そこに懸っている標札には「動坂家勝手口」という文字が読めた。――戸は合図に応じて、音もなく内側に開いた。

中には、別の男がいた。彼は火の番のような風体をしていた。僕たち二人を迎え入れると、彼は戸に鍵をかけた後、黙々として傍に置いてある大きな犬小屋の中に姿を隠した。この小屋の主人公であるらしいシェーパードが一匹、雪の積った地面に死んだようになって長く伸びていた。

懐中電灯の光のもとに、絵図を案じながら先に立つ速水に随っていくと、やがて奥庭に出た。

「速水さん、見張りの連中は、僕たちの目的を知っているのかネ。皆いやに黙っているので気味が悪いナ」

「彼等は見張りだけが任務なんだ。――黙っているのは『深夜の市長』の威令が行われている証拠だよ。規律が弛緩すれば、場所がらを弁えず、詰らぬお喋りなどをするものだ」

僕は皮肉を云われたように感じて、それ切り口を噤んだ。

絵図の上に、赤い矢印で示された縁の下の潜り穴が見つかった。そこで両手と膝頭とをついて、薄氷の張っているらしい大地のツーンとする冷たさを痛く感じながら、穴を潜って床下に忍びこんだ。