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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

……さあ牛乳にトーストよ」

お照はどこで用意して来たのか、銀盆の上に、軽い食事を搬んできた。

「いや済まない。……『市長』はあんな重態でも、やはり夜明け前には居なくなるのかネ。……それはそうあるべきだろうけれど……」

「なにが、そうあるべきサ」

「イヤ、あの人の生活は、ちょっと僕に似ているところがある」

「ちっとも似てやしないよ。似ているといやあ、うちの絹坊に似ているよ。お陽さまが嫌いなところがネ」

「ああ絹坊! 絹坊といえば、絹坊はどうしているネ」

「けさ速水さんが病院に連れていったよ。お陽さまを恐がるのをセイシンブンセキとかで癒すためにネ。あたしは余計なことだと思っているんだけれど、あの人は癒してやるってきかないのだよ」

「精神分析か、速水さんの好きらしいことだ」僕は熱い牛乳を一口すすった。「お照さん、絹坊の父親は誰なんだネ」

お照はギクリとしたらしく、一歩身を引いて立ち竦んだ。

「あんたは、このあたしを縛るつもりなのネ」

「……うんにゃ、縛るのはもうよしたよ、はッはッはッ」

「だってそれじゃお役目をどうするの……」

「お役目か、お役目なんざ……もう罷めちまうばかりだ」