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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

間に合わぬと知ったので、最後の手段として円タクを割増金つきで急がせることにより、ようやく時刻ぎりぎりに滑りこんで、セーフと相成った。勤めてから今日が八日目だというのに、早々こんなことでは前途が案じられてならない。

その日の勤めが終ったのが、丁度五時だった。いつもならもう一時間早く引上げられる筈だったが今日はあれもこれもと見学やら手伝いやらを仰せ付かってたいへん遅くなった。門から外へ飛びだすというと、本名の「浅間信十郎」なる人物はフッと世界から消えて、探偵作家「黄谷青二」に早変りしてしまうのであった。その途端に僕は、まるで色彩の異った別の世の中を見るのであった。それが何ともいえず楽しいことだった。

門を出て、バスの停留所の方へ四、五軒ほど「黄谷青二氏」が行ったかと思った頃、不意に後から、「浅間さん浅間さん」と呼び声がする。ふりかえって見ると、これが小倉服を着た僕らの部屋の小生意気な給仕であった。忌々しいながら、僕は直ちにもとの「浅間信十郎」に還元して何ごとかと聞くと、「麻雀をやろうと仰有っています」と云った。二、三日前、上役の耳に、僕が麻雀三段であるというのをつい耳に入れてしまった。