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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

……」

と女はフラフラする身体を起そうとする。僕はそんな目に会いたくなかったので、女の腕を掴むと無理やりに椅子の上にまた腰を下させた。女は椅子の上にドスンと尻餅をつき、乱れた裾をかきあわせた。僕の両の掌には、蛇にでも触ったような妖しい触感だけが、いつまでもハッキリと残っていた。

「どうせ、貴女に渡して頼むように言いつかってきたものだからいいようなものの……。一体貴女はどこから僕の家へ忍びこんだのです。そしてまた何処から出ていったのです」

女は肩をすぼめるようにして、顔を曲げた。分りきったことを聞くものかなという風に……。

「……床下を潜って、お勝手の板の間を開けて入ったのさ。お隣りは空き家で、窓の締りが一つ外れるところがあるんですよ。内部へ入れば、畳のない床は、明けっ放しよ。用心はあまりいい方じゃないわネ」

僕は頭を鉄槌でガーンと擲られたような気がした。そんな不用心な抜け道があったのであるか。何もかもそれで分った。この女が、隣りの空き家から床下越しに忍びこみ、僕の家の勝手の板を下から押しあげたときに、そこに置いてあった花筒の水をひっくりかえしたというわけなんだろう。