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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
僕は銀座近くのビルディングの高い場所にあるレストランで、夕食後の飲物を幾度となく追加注文しながら日の暮れるのを待った。厚い鼠色の曇り空を通して、遅々たる陽あしを感じてはひとり苛々した。
やがてのこと、俯観しているT市のあっちにもこっちにも桃色のネオン・サインがだんだん浮きあがって来た。そしてその間を待望の夜の闇が、静かに薄墨色の翼を拡げていった。夜だ、夜だ。遂にまた夜のT市が巡って来たのだった。僕は卓子の前から、ずいぶん長い尻を上げた。
僕はなんとなく脱獄囚のような素振りになるのを自分でも苦笑しながら、密かに夜の城東の一廓に紛れこんだ。幸いに尾行者もない様子で、ホッと胸をなでおろしながら「深夜の市長」の住む土窟の方に急いだ。
土窟の方へ曲る角のところには、紡績工場の高い塀が聳えている。そこを何気なく折れ曲って、そこで前方を見た僕はハッと胸を衝かれたように感じた。これは何ごとであろうか、土窟の方から、今しも大時代な提灯の灯が三つ四つ、暗闇の中にブラリブラリと揺れながら、こっちへやってくるところであった。
「ハテナ?」
僕は驚いた。顔でも見られては大変と、飛鳥のように身を躍らせて反対側の軒下に身を潜め、一行をやり過しつつそれとなく様子を窺った。