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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

「それじゃ幸子さん、電話でこんな話をして済みませんけれど、今更お目に懸っても始まらないから、お伺いしないことにしますわ、何卒悪しからず、―――」

と、そう云って電話を切りそうにするので、

「ほんまに、ほんまに、………いずれお詑びにお伺いしますけど、………お怒りになるのもちょっとも無理やあれしませんけど、………」

と、自分でも何を云っているのやら訳の分らない挨拶をしかけると、

「いいのよ、幸子さん、そんなに仰っしゃって下さらないでも。いらしってなんぞ戴いちゃ恐縮だわ」

と、聞くのもうるさいと云わんばかりに云って、幸子がオドオドしている隙に、

「左様なら」

と、切ってしまった。

受話器を置くと、そのまま卓上電話のある夫の机に凭りかかって頬杖をつきながら、幸子は暫くじっとすわっていた。今に夫が戻ったら厭でもこのことは耳に入れなければならないのだけれども、………今日は云うのを止めて、明日にでも気持が落ち着いてからのことにしようか。………夫がどんなにガッカリするかは想像に余りあるが、それよりも、こんなことから夫が雪子に愛憎を尽かすようにならねばよいが。………従来夫は妙子を嫌う傾きがあったが、雪子には同情を寄せていたのに、とうとう妹たちが二人ながら嫌われてしまうのだろうか。