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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

お春はそのことを奥畑に告げたので、奥畑も不安になって他の病院を当って見たが、隔離室の設備のあるのがこの近所には外にない。それで、表面大腸加答児と云うことにして、宅で治療しては? と云うと、何分伝染病のことですからと、医者はよい返事をしない。でも奥畑は、赤痢ぐらいで一々入院することはない、みんな自宅で直しているやないか、と云ったりして、構うことはないからそれに極めて、医者には何とか納得して貰おう、それとも蘆屋の姉さんの考を聞いてみようかと、お春に相談があったので、そんなら何と仰っしゃいますか伺って参りましょうと、電話では埒が明かないと思ったので、大急ぎで戻って参りました、と、そう云うのであった。

その医者と云うのはどんな人か、と聞くと、矢張阪大出の斎藤と云う人で、櫛田医師より二つ三つ若く見える。父の代からこの町に開業していて、老先生と云われる人もまだ生きており、父子ともそう評判は悪くないが、お春の観察では櫛田医師のようにテキパキしたところがない。診断などもひどく慎重を期すると云う風で、容易にはっきりしたことを云ってくれない。今度の診断がおくれたのも、一つはそのせいなのであるが、一つには、赤痢にしては熱が高く、それに最初の一日は便通がなく、下痢が始まったのは発病してから二十四時間後の一昨々日の夜であった。