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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

ああ云う風に高い熱の差し退きが激しく、寒気がして顫いが来ると云うのは、恐らく赤痢だけでなく、肝臓膿瘍を併発したとしか考えられない。しかし自分の一存では何とも断言しかねるので、一度阪大の然るべき専門家に来診を乞うた方が安心だと思うが如何であろう、と云うことであった。なお聞いて見ると、その病気は他の膿瘍中の黴菌が取付くので、しばしば赤痢から来るのである、そして、膿を持った腫物が一箇所なら直り易いが、多発性と云って、多くの膿瘍が肝臓内のあちらこちらに出来ると相当面倒である。膿が腸と癒着した箇所が破れてくれるとよいけれども、肋膜や、気管や、腹膜の方へ破れると、大抵助からない。―――と、斎藤医師はそう云って、明言を避けてはいるけれども、殆どそれに疑いないものと極めているらしい口吻であったと云う。

「ま、兎も角も病人に会うてから、―――」

幸子は奥畑と雪子とが交語るのを聞き終ると、取り敢えず二階へ上らして貰った。病室は南向きの六畳の間で、外にちょっとした露台のようなものが附いてい、出入り口がドーアになっており、畳敷きではあるけれども、床の間はなく、天井までも白壁になっていて、一方に押入があるのを除けば、大体洋間の感じである。