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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

だから何処か外の場所へ移してほしいと云うのです。それがどうやら啓坊の家で死ぬのは嫌だと云うようにも聞えるのです。これは雪子ちゃんの想像ですが、あの板倉と云う写真師の一周忌が近づいて来ているので、こいさんは何かあの男のたたりと云うようなものを恐れているのではないかとのこと。この間も夢でうなされていたらしいとのこと。ほんにそんなこともあるかも知れません。又啓坊の家で死んだら姉ちゃんや私等が迷惑すると云うことを考えているのかも知れません。何にしてもあの我慢強いこいさんが気が弱くなっているのはただごとではありません。顔つきなども昨日あたりから死相が現れたとでも云うのでしょうか、眼がすわって、顔面筋肉がじっと動かないようになってて、見るとぞっとするようで気味が悪いのです。それで私も病人の気持を酌んでやらなければと思い、啓坊には一切出入りして貰わないことにして急に此方へ引取ることに決め、今日寝台自動車で蒲原病院へ運び込みました。実は伝染病の設備のある病院が満員なので、蒲原さんに訳を話して、内証で彼処へ入院させて貰ったのです。お医者さんは姉ちゃんも御存知の櫛田先生が見てくれています