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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

そして幸子が、

「何」

と聞いたので、

「いいえ、何でも………」

と、うろたえながらお秋が首を引っ込めようとすると、

「こいさんは今帰ったよって、御飯は御寮人さんとあたしだけやわ」

と、雪子が云った。

雪子は、

「あのくらいなこと、たまには云うといた方がええねん」

と、あとで幸子にそう云っただけで、もうその話は忘れたようにしていたので、とうとうその朝の出来事は、悦子にも貞之助にも感づかれないでしまった。ただその明くる日、終日妙子が姿を見せなかったので、今日はこいちゃん、どないしたんやろ、………風邪でもお引きになったんでしょうか、と、悦子とお春が不思議がった。こいさん今日は珍しく欠勤かいな、と、幸子もさあらぬ体で云い、ひょっとするとこれから当分来ないようになるのではないかと、密かに案じたが、その明くる日の朝になると、妙子は何事もなかったようにケロリとしてやって来た。そして少しもこだわらずに雪子とも口を利き、雪子も機嫌よくそれに応じた。奥畑のことについては、満洲行きは止めにしたらしいわ、と、妙子が云い、そうか、と雪子が答えただけで、それ以後そのことは孰方からも云い出さなかった。