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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
―――しかし幸子は、これを実行するのには夫に事情を打ち明けて、彼の力を借りるのでなければ、自分一人の計らいで出来ることではないと思うと、早くも気が重くなって来るのであった。実際、いくら自分を信じてくれ、愛してくれている夫であるからと云って、幸子は自分の肉身の者の度重なる不行跡を何として耻を感ずることなしに打ち明けることが出来ようぞ。夫にして見れば雪子や妙子は義理の妹であるに過ぎず、本家の兄とは自ら立ち場が違うので、そう格別に面倒を見る筋合はないのに、親身の兄も及ばぬくらいに二人の世話を焼いてくれているのは、そう云っては己惚れかも知れないが、つまるところは妻への深い愛情がさせる業であろうと、幸子は内心得意にも、有難くも感じているのだけれども、さすがの夫も、妙子には毎々不快な目に遇わされるので、外のことでは何一つ風波の起らない家庭の内部にも、妙子のことが原因で稀に意見の衝突が生じることがあり、妻の身としてそれを夫に済まなく思ったことも一再ではなかった。それが最近、好い塩梅に漸く夫の機嫌が直り、公然と妙子の出入りを許すようになっていたのに、―――おまけに今度は雪子の縁談と云う何よりの土産を持って帰って、喜んで貰おうとしていたのに、―――何として又こんな厭な話を聞かされようぞ。