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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

今日は何となく手紙が書いて見たくなって書いたのですが、つい愚痴になりましたからもう止めます。そのうちきっとおめでたい話の相談があることと思いたのしみにして待っています。末筆ながら貞之助さん、悦ちゃん、雪子ちゃんによろしく

十一月五日

鶴子

幸子様

おん許へ

幸子はこれを読んで行くうちに、先日道玄坂の家の門前で、自動車の窓を隔てて別れの挨拶を交した姉の、涙をぽろぽろ零していた顔を思い浮かべた。姉は何となく書きたくなったので書いたと云っているけれども、―――そしていろいろの物の無心をする用もあったのであろうけれども、―――矢張あの時芝居に誘って貰えなかったことが忘れられないで、その恨みを婉曲に述べているのかも知れなかった。今迄姉の手紙と云うと、此方を妹扱いにして意見するような書き方をしたのが多く、幸子はいつも、訪ねて行けば優しい姉に、文の面では叱られてばかりいたような気がするのであるが、そう云う姉がこんなことを云って来たのは、ちょっと不思議であったので、取り敢えず注文の品々を小包便で送り出したきり、直ぐには返事をしたためようともせずにいた。

ヘニング夫人の娘フリーデルが、今度父に伴われて伯林へ行くことになったと云って、或る日夫人が訪ねて来たのは、十一月の中旬であった。