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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

なのであった。老人は、私は御免を蒙むってと、鼠の絹の襟巻をし、電気ストーブを背中に当てたり、電気布団を敷いたりして、風邪を引かぬ用心をしながら、物静かに、ぽつぽつ口を利くのであったが、七十を越えた高齢の割にはしっかりしていて、国嶋に対し、貞之助たちに対し、可なり勤めているところが見えた。初めのうちはこの老人に遠慮する気味合いであった一座の空気も、酒が廻るに従って解れて来、父の隣に席を占めた御牧が、如何でございますか皆さん、この親子はちっとも似ていないと云う評判があるんですが、………と、冗談交りに親父の顔と自分の顔の棚おろしを始めた頃から、彼方此方に笑声が起った。貞之助は立って老人の前に行って献酬をし、それから国嶋の前に行って、御高話拝聴と云う恰好で長いこと坐っていた。悦子を除く女たちが皆和服でいる中に、ひとり洋装をして、靴下の脚を寒そうに曲げて坐っていた光代は、流石に今日は慎しんでいるようであったが、光ちゃん、いやに大人しいねと、御牧に盛んに杯をさされて、今日はそんなにいじめないでよ、と云いつつもだんだん酔って行って、いつもの早口を発揮し出した。