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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
て、豚小屋のようにむさくろしくしているので、慌てて障子の貼り替えやら畳がえやら壁の塗り直しまでもすると云う騒ぎであった。
幸子は東京になったと聞いて何となく気が進まなかったが、これと云う理由もないのに不賛成も唱えられず、三月二十三日に、貞之助は忙しいと云うので、彼女が雪子に附添って立った。そして、二十五日に結納を終え、ロスアンジェルスにいる井谷の許へ国嶋からその旨を打電したのであったが、雪子は暇乞い旁暫く本家に留まることになって、二十七日の朝幸子だけ帰って来た。と、ちょうど十時頃のことで、貞之助も悦子も出かけてしまったあとなので、彼女はひとりゆっくりと足腰を休めるために二階の寝室へ上って行ったが、ふと机の上を見ると、西比利亜経由の外国郵便が二通、封を切ったまま置いてあり、その傍に夫の手で、
シュトルツ夫人とヘニング嬢から珍しい便りが来た。悦子が早く内容を知りたがるので封を切ったら、シュトルツ夫人のは独逸語で書いてあった。依って小生大阪へ持って行き、知人に飜訳して貰ったもの別紙の通り
と、紙片に走り書きをして、原稿用紙七枚程になる飜訳文が添えてあった。―――