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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
「こんな田舎におりますと、こう云う見事な生きのよい鮎を戴くなんて云うことはめったにございません」
と、常子が口を挟んだ。
「―――而も沢山氷詰めにしてお持ち下さいまして、さぞお荷物でございましたでしょう。これはどちらで獲れました鮎でございましょうか」
「これは長良川で、………」
と、沢崎はだんだん機嫌を直して、
「昨夜電話で頼んで置きまして、先刻岐阜の駅で汽車まで届けさせたのでございます」
「それはまあ、お手数をお掛け下さいまして、………」
「お蔭で初物が戴けますわ」
と、未亡人の尾について幸子が云った。
そんなことから又少しずつ座談の縒りが戻って行って、岐阜県下の名所旧蹟の話、日本ライン、下呂温泉、養老の滝の話、昨夜の蛍狩の話など、ぽつぽつと取り交されたが、どうもさっきのようには弾まず、お互にギゴチなさを忍びながら、座をつなぐために何か彼か話題を持ち出していると云う感じであった。幸子は自分が行ける口なので、こう云う時にもう少し酒間の斡旋をしてくれるとよいのだがと思ったりしたが、何分十二畳の広間に四人が相当離れ離れに席を占めていることではあり、男客と云っては一人だけであるから、常子ではそこまで気が廻らないのも無理はなかった。