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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

と云う訳であった。が、彼女は旅館へ着いて見て、夫が自分達のためにこう云う日程を作ってくれたことを、改めて感謝しないではいられなかった。と云うのは、今日の見合いが如何にも後味が悪かったので、もしあのまま雪子と大垣駅頭で別れたとしたら、云いようのない厭な気持がいつ迄も残ったであろうからであった。彼女としては、自分の不愉快は兎に角として、雪子をあんな目に遭わせたままで、孤影悄然と東京へ立たせるのには忍びなかったのであるが、全く夫は素晴らしいことを思い付いてくれた。彼女は今日の菅野家のことを自分も努めて考えないようにしたのは勿論だけれども、何よりも雪子が、悦子や妙子と同様に、此処の一夜を享楽しているらしいのを見て、救われたような気がしたのであった。なおその上に仕合せなことには、明くる朝は雨も止んで、よい日曜になったのであった。そしてこの旅館のいろいろな設備、娯楽機関、海岸の景色、等々は、貞之助の思った通り悦子を少からず喜ばしたのであったが、それよりも幸子は、雪子が昨日の見合いのことなど最早や念頭にないかの如く朗かにしているのが有難く、それ一つでも此処へ来た甲斐があったのを感じた。